CVCをLPSで組成するには?本体投資との違いや設立、金商法、そして会計監査まで実務を解説
「CVCを立ち上げたいが、本体から直接投資するのか、自社でファンドを組成するのか決めきれない」、事業会社の担当者が最初につまずきやすい論点です。
LPS(投資事業有限責任組合)はCVCの有力な選択肢ですが、すべての企業に最適とは限りません。LPSを採用すると、組合契約、登記、金融商品取引法上の登録・届出の検討に加え、運営開始後はキャピタルコール、投資資産の評価、LP報告、決算、法定監査まで継続的な実務が発生します。 この記事では、CVCの器を選ぶ判断軸、LPS組成前に決める事項、実務フロー、金商法63条特例、現行の会計・時価評価ルールを、公認会計士・投資実務家の視点で整理します。個別案件では出資者構成や運用方法により結論が変わるため、実行前に弁護士・公認会計士等へ確認してください。
CVCでLPSを使うのはどんな場合?
CVCの投資形態は、本体からの直接投資、投資子会社、外部ファンドへのLP出資、自社ファンド(LPS)の組成などに分けられます。外部資金を入れるかだけでなく、投資判断を誰が担うか、運営人材を確保できるか、投資期間とガバナンスを固定する必要があるかまで比較することが重要です。
| 形態 | 向いているケース | 主な留意点 |
| 本体からの直接投資 | まず少数案件で始めたい | 意思決定が本体ルールに左右されやすい。投資損益は本体の財務諸表に直接反映。 |
| 投資子会社 | 専任組織と権限を切り出したい | 設立・管理コスト。本体との距離。連結範囲での会計影響は残る。 |
| 外部ファンドへのLP出資 | 外部GPの専門性・案件網を活用したい | 投資判断や運営への関与は契約上の範囲に限られる。 |
| 自社ファンド(LPS) | 複数案件を長期・継続的に運用し、規律を契約化したい | 組成、金商法対応、ファンドアドミ、決算・監査対応が必要。償還期限。 |
| 二人組合でのLPS | 事業会社1社と外部GPで始めたい | 外部GPへの依存度、管理報酬、役割分担。 |
判断軸は外部資金の有無、10年程度の継続意思だけでは足りません。投資件数・金額、社内の意思決定速度、専任人材、外部GPの活用、LPレポーティング、会計・税務への影響を並べて比較し、複数の器を併用する選択肢も含めて決めます。
LPSを組成する前に決めること
LPA(組合契約)はファンド運営の土台です。変更は全組合員の合意が原則ですが、LPAに有効な変更手続を定める場合は、その定めに従えることがあります。将来の追加クロージングや利益相反まで想定して、少なくとも次の事項を詰めます。
- ファンド目的:財務リターンと戦略リターンの優先順位、評価指標、投資対象との関係を明確にします。
- ファンドサイズ:出資約束総額から管理報酬・運営費・フォローオン投資枠を控除し、実投資可能額から逆算します。
- GP・運用体制:自社グループでGP法人を設けるか、外部GPを起用するか。投資判断、ソーシング、管理業務の責任も定めます。
- LP構成:外部LPの有無、投資方針への影響、情報提供、サイドレター、金商法上の投資家区分を確認します。
- 存続期間・投資期間:期間延長、追加投資、処分期間、キーマン事由時の取扱いまで設計します。
- チケットサイズ・投資枠:初回投資とフォローオン投資、1社・1業種への集中上限を定めます。
- 投資対象:LPS法上の対象事業に加え、領域、ステージ、地域、除外対象を定義します。
- 投資委員会:構成員、定足数、決議要件、拒否権、利益相反時の手続を明確にします。
- 評価・モニタリング:投資先から取得する情報、評価頻度、評価方針、監査人との連携を設計します。
- 管理報酬・キャリード・インタレスト・分配:管理報酬等の費用と、分配として扱うキャリード・インタレストを区別し、優先分配やキャッチアップ、クローバックを含む経済条件を定めます。
LPS組成の実務フロー
- GP・運用体制を設計する:専用のGP法人を設けることが一般的ですが、法的主体、運用権限、業務委託先、社内人員の兼務関係を一体で設計します。
- LPAと関連資料を作成する:経済産業省の令和7年版モデルLPAは有用な叩き台ですが、ファンド方針・LP属性に応じた修正と専門家の助言が前提です。
- 金商法上の枠組みを確定する:募集・運用の主体、投資対象、出資者構成を基に、登録、63条特例その他の適用可能性を判断します。
- クロージングと効力発生を行う:ファースト・クロージングと追加クロージングの条件、出資約束、初回キャピタルコールを整合させます。
- 登記する:LPS法17条に基づき、組合契約の効力発生後2週間以内に、主たる事務所の所在地で必要な登記を行います。
- 登録・届出を完了して募集・運用を開始する:63条特例を用いる場合は、原則として業務開始前の届出が必要です。勧誘開始時期を含め、所轄財務局と確認しながら進めます。
- 運営基盤を稼働させる:銀行口座、キャピタルコール、投資台帳、評価資料、LP報告、決算・監査の年間カレンダーを整えます。
金融商品取引法で何に注意するか
LPS持分は、金商法上の集団投資スキーム持分(みなし有価証券)に該当します。GPが自ら持分を勧誘する行為と、出資財産を主として有価証券等へ投資して運用する行為は、原則としてそれぞれ第二種金融商品取引業と投資運用業の登録対象です。ただし、行為主体・投資対象・勧誘方法によって扱いが変わるため、名称だけで判断できません。
適格機関投資家等特例業務
VC・CVCファンドでは、登録ではなく、金商法63条の適格機関投資家等特例業務の届出を利用する例が多くあります。典型的には、出資者の全てが適格機関投資家である場合、または1名以上の適格機関投資家と49名以下の一定の投資判断能力を有すると見込まれる者で構成される場合に、要件を満たせば自己私募・自己運用を届出により行えます。
ただし、49名以下という人数だけで判断してはいけません。出資者ごとの資格、密接関係者等の出資割合、欠格事由、届出者の人的・業務管理体制、行為規制、事業報告書・説明書類など、届出後も継続する義務があります。出資者構成の変更時には、特例の継続可否を再確認します。
LPS運営開始後に必要な実務
- キャピタルコール:通知期限、払込日、デフォルト時の取扱いをLPAと実務手順で一致させます。
- 資金・持分管理:組合財産をGP固有財産と区分し、出資約束額、払込額、未払込額、持分変動を組合員別に管理します。
- 投資実行記録:投資委員会資料・議事録、投資契約、送金、株主名簿・証券情報を一連で保存します。
- 投資資産の評価:決算時だけでなく、資金調達、業績悪化、EXIT見込みの変更など評価イベントを継続的に把握します。
- LPレポーティング:投資先の状況、IRR・DPI・TVPI等、資金残高、重要事象をLPA・サイドレターに沿って報告します。
- 分配:LPAの分配順位、源泉税、未実現利益、再投資条項を確認して実行します。
- 決算・監査:毎事業年度経過後3か月以内に財務諸表等を作成し、LPS法8条に基づく法定監査を受け、監査報告書とともに備え置きます。
LPSの会計監査と投資資産の評価
LPS法に基づく監査は法定監査
LPS法8条2項に基づき、LPSの貸借対照表、損益計算書、重要な会計方針・その他の注記および附属明細書(貸借対照表・損益計算書に係るもの)は、公認会計士または監査法人による法定監査の対象となります。LPがグループ会社だけであっても、監査が不要になるわけではありません。監査人は監査の結果を監査報告書として提出します。
業務報告書およびその附属明細書のうち監査対象外の部分は、監査意見の対象には含まれません。ただし、監査人は「その他の記載内容」として通読し、監査対象となる財務諸表等や監査で得た知識との重要な相違、重要な誤りの兆候がないかを検討します。組成時から監査対象書類とその他の記載内容を区分して決算をたてることが重要です。
2025年4月以降はLPS法施行規則が会計ルールの中心
2023年12月に制定された投資事業有限責任組合会計規則は、2025年4月1日に廃止されました。現在、財務諸表等の記載事項や投資評価の基本ルールはLPS法施行規則第5条以下に置かれています。経過措置があるため、適用年度の確認も必要です。
LPS法施行規則は、組合員という特定の利用者の情報ニーズを満たすための特別目的の財務報告の枠組みです。監査意見は、一般目的の企業会計基準への準拠性ではなく、LPS法、LPS法施行規則および組合契約への準拠性について表明されます。
施行規則11条2項・3項は、未実現損益の計上を含め、投資を原則として時価評価する考え方を採用しています。一方、同条4項は、投資に係る資産を組合契約に定める評価方法に従って評価することを求めています。したがって、LPSは必ず公正価値評価、LPAに書けば常に取得原価でよい、のいずれも正確ではありません。組合契約に定めた投資の評価方法が、会計処理と監査の直接の基準になります。
市場価格のない株式も評価対象
組合契約で時価評価を採用する場合、CVC・VCが保有する未公開株式についても時価を見積もります。直近ファイナンス価格を機械的に使うのではなく、投資先の業績、資本政策、優先権、希薄化、比較会社、EXIT可能性などを踏まえ、契約上の投資の評価方法に沿って評価します。評価基準、評価プロセス、使用した投資先情報、重要な判断、前期からの変更理由を文書化し、監査人が十分かつ適切な監査証拠を入手できる状態にする必要があります。
組合契約で評価方法を定める場合の注意
LPS法施行規則は、投資の評価方法を組合契約に定める仕組みを置いています。時価以外の方法を採用する場合も、監査人はその評価額が一般的な企業会計基準上の公正価値と一致するかではなく、組合契約に定める投資の評価方法へ準拠しているかを検討します。組合契約と実際の評価実務がずれていれば、監査意見に影響し得ます。LPの情報ニーズや連結・持分取込みのために公正価値情報が別途必要になる場合もあるため、LPA策定時にLP・GP・監査人で合意しておくことが重要です。
LPSの会計とLP側の会計処理は分けて考える
LPSがLPS法施行規則・組合契約に基づいて作成する財務諸表等と、事業会社等のLPが自社の財務諸表に組合出資を取り込む際の会計処理は、同じものではありません。LP側では適用する会計基準、連結範囲、子会社・関連会社該当性等を別途検討します。2025年改正の移管指針第9号では、一定の要件を満たす場合に、組合等の構成資産に含まれる市場価格のない株式を時価評価し、組合出資の会計処理の基礎とする方法が認められています。LPS決算の評価方法だけを見てLP側の処理を決めてはなりません。
JICPA第38号の改正公開草案(2026年8月21日)
日本公認会計士協会は、2026年8月21日に業種別委員会実務指針第38号の改正公開草案を公表しました。公開草案は、LPS法施行規則・組合契約に準拠する特別目的の財務報告の枠組み、監査報告書の文例、存続期限前後の評価、未実現損益と減損、成功報酬とキャリード・インタレスト等を整理しています。
※本稿執筆時点では意見募集期間中の公開草案であり、確定した実務指針ではありません。公開草案では、2027年1月1日以後開始する事業年度または会計期間からの適用(一定の場合の早期適用を含む)が提案されています。今後の確定内容と適用時期を確認して実務へ反映する必要があります。
令和6年LPS法改正で押さえるポイント
2024年6月公布の改正法により、LPSの投資対象や監査関連規定が見直され、関係政省令とともに施行されています。主な実務ポイントは次のとおりです。
- 海外投資規制:出資総額の50%未満という上限の対象となる外国法人の範囲が見直され、一定の「特別外国法人」は上限規制の枠外とされました。単に「海外投資枠が拡大した」とせず、投資先の支配・影響関係を確認します。
- 合同会社持分:合同会社の持分の取得・保有等が投資対象事業に追加されました。
- 暗号資産:事業者のために発行される暗号資産の取得・保有等が追加されました。該当性や金商法・資金決済法等の検討は個別に必要です。
- 監査範囲:LPS法8条2項に基づく監査対象が、貸借対照表、損益計算書、重要な会計方針・その他の注記およびこれらに係る附属明細書に整理されました。業務報告書等はその他の記載内容として扱われます。
【支援事例】JSGが支援するLPS・CVC実務
大手インフラ企業のCVC立ち上げ支援
投資目的・投資ビジョンの策定、本体投資・LP出資・ファンド組成の比較、投資基準とバリュエーション、投資委員会、チケットサイズ、投資後モニタリングまで設計しました。制度上可能な設計ではなく、その企業の人員・権限・会議体で実際に回る運用へ落とし込むことを重視しています。
関連する支援事例
投資実務からファンドアドミまで
独立系VCでは、ソーシング、DD、バリュエーション、投資契約交渉、投資後モニタリングを支援。上場VC子会社では、大手CVC、海外ファンド、金融系VC・PE等を含む約15社・50ファンドの決算レビューと業務可視化を支援しています。
LPS組成・運営を誰に相談すべきか
LPSの組成と運営には、ファンドストラクチャー、金商法、LPA、会計・時価評価、税務、監査、投資実務が複雑に絡み合います。専門家ごとの作業を並べるだけでは、契約上の評価方針と会計・監査実務がつながらない、募集スケジュールと届出が整合しない、といった手戻りが起こります。
JSGは、公認会計士としてのファンド監査・会計実務と、ファンドマネージャー・CVC支援の経験を基に、箱の比較、組成設計、管理体制、投資実行、モニタリング、決算・監査対応まで一貫して支援します。LPSでのCVC組成をご検討の方は、初期の比較段階からご相談ください。
相談窓口
まとめ
LPSは、長期・継続的な投資を契約とガバナンスで支える箱である一方、外部資金の有無だけで選ぶと、組成後の管理負担や法令対応を見落とします。本体投資、投資子会社、外部ファンドへのLP出資も含め、投資目的や人材、権限や会計影響、運営コストを比較してください。 LPSを選ぶ場合は、LPA、登記、金商法上の登録・届出、キャピタルコール、投資資産の評価、LP報告、決算、法定監査を一つの運営モデルとして設計します。LPS法施行規則は時価評価を原則としつつ、組合契約に定める投資の評価方法への準拠を求めています。LPA、実際の評価手続、監査証拠、LP側の会計ニーズを組成段階から結び付けることが、後の手戻りを防ぐポイントです。