資本政策とは?資本政策表の作り方と希薄化を防ぐ株式設計を解説
「資金調達を進めたいが、どのくらい株式を渡していいのか分からない」初めて外部からの調達に向き合う経営者の多くが、ここで手が止まります。Xでも初調達の失敗例をのっけたところ一定の反応がありました。
資本政策とは、いつ・誰から・いくらの資金を、どのような株価で調達し、結果として株主構成をどうするかを設計することです。事業計画と違い、一度実行してしまうと後から戻すことが極めて難しいという性質を持ちます。
さらに近年、資本政策の重要性は一段と高まっています。2025年9月、東京証券取引所はグロース市場の上場維持基準の見直しを公表しました。従来の「上場10年経過後に時価総額40億円以上」から、2030年3月以降は「上場5年経過後に時価総額100億円以上」へと引き上げられます。2.5倍の時価総額を、半分の期間で求められることになります。上場をゴールではなく通過点として設計できているかが、これまで以上に問われる時代です。
この記事では、資本政策で決める項目、EXITからの逆算、資本政策表の作り方と希薄化の考え方、会社法・会計上の持株比率の意味、投資家が見るポイント、よくある失敗までを、投資実務と会計の両面から整理します。
なお、資金調達や資本政策の設計についてご相談されたい方は、JSGのお問い合わせよりご連絡ください。
資本政策とは?資金調達と株主構成を計画すること
資本政策とは、どのような株主に、いくらの株価で、何株分の株式を割り当てるかという計画のことです。平たく言えば、「資金調達や株式公開をどこまで進めるか、公開時の持株比率は妥当な水準か」を検討する計画を表にしたものです。
理論的には、資本政策だけを単独で作ることはできません。まず事業計画を立て、そこから将来のキャッシュフローの計画が立ち、その計画をもとに現時点での企業価値が算定できます。企業価値が仮に決まれば「その時点で何株発行すれば、いくら調達できるか」が決まる。この流れがあって初めて、資本政策が組めます。
そして、事業計画で必要になる金額をどの程度の株式を発行して調達するか、という計画を作成するのが資本政策です。この結果、企業価値をもっと高くしたい、あるいは調達額を見直したいとなれば、もう一度事業計画に戻ることになります。1回で完成するものではなく、事業計画と行き来しながら精度を上げていくのが実務です。
なぜ資本政策が重要なのか|一度実行すると戻しにくいから
資本政策が重要である最大の理由は、やり直しがきかないことにあります。
事業計画は、うまくいかなければ何度でも修正できます。ワークシート上で試行錯誤するだけなら、コストもかかりません。しかし資本政策は違います。一度株主になってもらった人に「出ていってください」と言うことは、実務上ほぼ不可能です。株式を買い戻すには資金が必要ですし、そもそも相手が応じる保証もありません。
さらに、株価が上がった後の買い戻しは、経済的な負担が跳ね上がります。たとえば設立時に1株5万円で発行した株式が、数年後に企業価値の上昇で1株数百万円になっていれば、同じ1株を取り戻すのに何十倍もの資金が要ります。加えて、株式を譲渡してもらう際には相手方に課税が生じるため、税負担を考慮した金額を用意する必要も出てきます。
創業者の持分は、新株発行で希薄化した後に自然に元へ戻るものではありません。自己株式の取得、既存株主間の譲渡、組織再編などで調整できる場合はありますが、相手方の同意、会社法上の手続、資金負担、税務上の検討を伴います。実行前に複数ラウンド後まで試算することが重要です。
資本政策で決める主な項目
資本政策で設計する項目は、大きく4つに分けられます。
調達額・調達時期・バリュエーション
まず、いつ・いくら調達するかです。事業計画から必要資金を逆算し、シード、シリーズA、シリーズB……とラウンドごとに調達時期と金額を置きます。あわせて、各ラウンドでの企業価値(バリュエーション)を仮に設定します。
バリュエーションは、その時点の事業の実績と将来性から決まりますが、初期段階では実績が乏しいため、投資家との交渉によって決まる部分が大きくなります。
発行株式数・株価・持株比率
調達額とバリュエーションが決まれば、発行する株式数と1株あたりの株価が決まります。そして新株を発行した分、既存株主の持株比率は下がります。
ここで注意したいのは、株式数そのものには本質的な意味がないということです。会社法上、株式の額面は撤廃されており、株式分割も自由にできます。1株5万円の会社と1株5,000円の会社を比べても、発行済株式数が10倍違うだけで、企業価値は変わりません。見るべきは常に「株価×株式数=価値」であり、「持株比率」です。
創業者・投資家・役員従業員の株主構成
誰が何%を持つかを設計します。創業者、共同創業者、役員、従業員、VC、事業会社(CVC)、エンジェル投資家…それぞれの立場によって、期待するものも、会社に与える影響も異なります。
ストックオプションの設計
役員・従業員へのインセンティブとしてストックオプション(新株予約権)を発行する場合、その総量と配分も資本政策に組み込みます。ストックオプションは将来的に株式に変わる可能性がある「潜在株式」であるため、発行済株式だけでなく、潜在株式を含めた比率(潜在込み比率)で持株構成を把握しておく必要があります。
資本政策表とは?ラウンドごとの持株比率を可視化する表
資本政策表とは、設立から上場(またはM&A)までの各ラウンドについて、株主ごとの保有株式数と持株比率を時系列で並べた表です。左から右へ、設立、第1回増資、第2回増資……と時間が進み、各時点で誰が何%を持っているかが一覧できます。
一般的な資本政策表には、次の要素を並べます。
- 株主の一覧(創業者、役員、従業員、各投資家)
- 各ラウンドでの増加株式数と発行済株式数
- 各ラウンドでの持株比率
- 1株当たりの株価
- 調達額の合計
- 企業価値(ポストマネー)
財務諸表のように定まったフォーマットのルールはないため、必要な要件が盛り込まれていれば体裁は自由です。重要なのは、「このラウンドを実行すると、上場時に自分は何%になるのか」が一目で分かることです。
プレマネー・ポストマネーの考え方
企業価値には、投資を受ける直前の状態を指す「プレマネー(pre-money)」と、投資を受けた直後の状態を指す「ポストマネー(post-money)」の2つがあります。
ポストマネーは、プレマネーに調達額を足したものです。増資では会社に現金が入るため、その分だけ企業価値が増えます。たとえばプレ7.3億円の会社が2億円を調達すれば、ポストは9.3億円になります。
投資家との交渉では「バリュエーションはいくらか」という会話が頻繁に出ますが、プレとポストのどちらを指しているかで金額が変わります。持株比率の計算もずれるため、必ず確認すべき前提です。
希薄化率の計算方法
新株を発行すると、既存株主の持株比率は下がります。これを希薄化(ダイリューション)といいます。
計算はシンプルで、新株発行後の総株式数に対する自分の保有株式数の割合を出すだけです。たとえば発行済20,000株の会社で、創業者が16,000株(80%)を持っているとします。ここで3,500株を新規発行すると、総株式数は23,500株となり、創業者の比率は16,000÷23,500=約68.1%に下がります。
複数ラウンドを重ねると希薄化は累積するため、資本政策表で上場時点までの希薄化を通しで確認することが不可欠です。
創業者持株比率はどこまで維持すべきか
「創業者は何%を持つべきか」という問いに、唯一の正解はありません。ビジネスの性質、ステージ、規模によって答えは変わり、ケースバイケースで考えるほかありません。
ただし、判断の軸となる基準はあります。1つは次に述べる会社法上の持株比率の意味、もう1つは上場審査で求められる株主構成です。加えて、そもそも持株比率だけを守ることに意味があるのか、という視点も欠かせません。株主にとっての価値は持株比率だけでなく、株価を掛けたもので決まるからです。
持株比率にはどんな意味がある?会社法と会計上の閾値
持株比率は、単なる「取り分」ではありません。会社法上、いくつかの閾値を境に、株主が持つ権限が変わります。
- 50%超:通常の定足数を前提に、普通決議の成立を左右しやすい。実際の決議可否は、議決権行使の状況、定款、株主間契約等も確認する
- 3分の1超:全議決権が行使されるなどの前提では、特別決議を阻止できる水準。定足数や出席状況、定款の定めにより結論は変わる
- 3分の2以上:全議決権が行使されるなどの前提では、特別決議を成立させられる水準。定款で要件が加重されていないかも確認する
会計上は、議決権比率だけでなく、財務・営業又は事業方針への支配又は重要な影響の実態で子会社・関連会社を判定します。20%以上の議決権保有は重要な影響を判定する有力な目安ですが、15%以上20%未満でも役員派遣、重要な取引、資金面の関係等を総合して関連会社となる場合があります。反対に形式的な比率だけで結論は出せません。CVCが出資比率を20%未満に抑えたいと考える背景には、持分法適用や決算早期化への対応負担が含まれることがあります。
いずれも資本政策の設計に直結する論点です。誰にどこまでの比率を渡すかは、資金の多寡だけでなく、これらの閾値を意識して決める必要があります。
資本政策はいつ作る?設立前から資金調達前に準備する
資本政策は、外部から資金を入れる前に作っておくべきものです。理想を言えば、設立の時点から上場までを見通した設計をしておきたいところです。
理由は明快で、株主が増えてから資本政策を組み直すのは極めて難しいからです。外部から資本を入れる前であれば、株式をどう分けるかは自由に決められます。しかし一度株主が入ると、その後の設計にはその株主の意向が影響します。
とはいえ、設立時点で上場までの計画を完璧に描ける経営者はほとんどいません。現実的には、外部調達を検討し始めた段階で、一度は上場までの資本政策表を引いてみること。そのうえで、ラウンドごとに実績を反映して更新していくのが実務的な進め方です。
スタートアップの資本政策の作り方
事業計画から必要資金を逆算する
まず事業計画を作り、いつ・いくらの資金が不足するかを把握します。将来の損益、キャッシュフローの2つもしくは貸借対照表も含む3つを作れば、資金がどう推移するかが見えてきます。
調達ラウンドとバリュエーションを仮置きする
必要資金が見えたら、それをどのラウンドで、どのくらいのバリュエーションで調達するかを仮置きします。この段階では精緻である必要はなく、「シードで数千万円、シリーズAで数億円」といった粒度で構いません。
重要なのは、各ラウンドでの希薄化が積み上がった結果、上場時に自分が何%になるかを確認することです。
SOプールを設計する
役員・従業員向けのストックオプションをどれだけ確保するかを決めます。
ストックオプションの適切な総量に一律の法定上限や上場基準上の固定値はありません。採用計画、役割別の付与方針、既存株主の希薄化、次回調達時の投資家要請、上場時の潜在株式比率を資本政策表で試算し、必要な範囲をプールとして確保します。市場慣行の数字だけを根拠に決めないことが重要です。
なお、ストックオプションには税制適格の要件、行使価額の設定、行使資金の負担など、資本政策とは別に押さえるべき論点が数多くあります。
IPO・M&A時の持株比率を確認する
最後に、上場時点での株主構成を確認します。ここで見るべき観点は次のとおりです。
- 上場審査基準(株主数、流通株式比率など)を満たしているか
- 創業者や役職員の持株比率は、企業価値向上のインセンティブとして機能する水準か
- 安定株主として意図した構成になっているか
- 上場後もさらに成長するために、ファイナンスの余力が残っているか
上場は決してゴールではありません。上場後も引き続き成長しなければ、株価は右肩下がりになり、投資家にも迷惑をかけることになります。上場時にファイナンスの余力を残しておくという観点も、資本政策には必要です。
資本政策はEXITから逆算する
資本政策を作成するにあたって、何にもまして重要なのがEXITから逆算することです。EXITとは、創業者や出資者が投資資金をIPOやM&Aによって回収することをいいます。
理由は2つあります。第一に、ベンチャーキャピタル等の投資がIPO実現を前提としているため、EXITから逆算して資金調達を行う必要があること。第二に、安定した経営権を確保するためです。持株比率は、一度希薄化してしまうと取り戻すことが難しく、計画的な資金調達を行う必要があります。
上場基準を確認する
まず押さえるべきは、目指す市場の上場基準です。東京証券取引所には現在3つの市場(プライム、スタンダード、グロース)があり、それぞれ別々の基準が設けられています。
| 項目 | グロース市場 | スタンダード市場 | プライム市場 |
| 株主数 | 150人以上 | 400人以上 | 800人以上 |
| 流通株式数 | 1,000単位以上 | 2,000単位以上 | 2万単位以上 |
| 流通株式時価総額 | 5億円以上 | 10億円以上 | 100億円以上 |
| 流通株式比率 | 25%以上 | 25%以上 | 35%以上 |
| 時価総額 | – | – | 250億円以上 |
| 純資産額 | – | 正であること | 50億円以上 |
早期上場を目指すスタートアップの多くは、グロース市場を狙うことになります。ここで重要なのは、株主数や流通株式比率といった形式基準を満たすには、資本政策の段階からの設計が必要だということです。上場直前に流通株式比率が足りないと気づいても、対応は容易ではありません。
2030年からのグロース市場の新基準に注意する
前述のとおり、2025年9月26日に東証が公表した見直しにより、グロース市場の上場維持基準が引き上げられます。
新基準は「上場5年経過後の事業年度末において時価総額100億円以上」で、適用は2030年3月1日以降に最初に到来する事業年度の末日からです。基準を満たさない場合、1年間の改善期間を経て上場廃止となります(適合計画を開示すれば、その計画期間中は例外的に上場を継続できる猶予措置があります)。
影響は小さくありません。上場時点の形式基準だけでなく、上場後5年間の成長投資、資金調達余力、IR体制までを資本政策に織り込む必要があります。個社への影響は、上場時期、事業年度末、適用される経過措置、時価総額の推移によって異なるため、最新の取引所規則と自社スケジュールを照合します。
資本政策の観点から言えば、上場できる規模ではなく上場後5年で時価総額100億円に到達できる規模を前提に設計する必要が出てきたということです。上場時の調達額、上場後の成長投資の余力、安定株主の構成などなど、すべてをこの前提で見直すべき局面にあります。
EXIT時の企業価値を試算する
EXIT時の企業価値は、類似上場会社比較法、DCF法、類似取引比較法など、事業特性と成長段階に合う複数の手法でレンジを試算します。利益が安定している事業では、当期純利益に類似会社のPERを乗じる方法が一つの参考になります。
たとえば当期純利益4億円にPER25倍を適用すれば、株主価値100億円という参考値になります。ただし、赤字企業や事業転換期ではPERが適さないこともあります。類似会社は、収益構造、顧客、市場、成長率、リスク等の実態に基づいて選び、恣意的に高い倍率の企業へ寄せないことが重要です。
想定より時価総額が小さくなる場合は、計画そのものを練り直す必要がありますし、企業の魅力の伝え方(エクイティストーリー)を見直す機会にもなります。
M&AもEXITの選択肢として検討する
前述の上場維持基準の見直しにより、M&Aの可能性を事前に検討する重要性も高まっています。ベンチャーキャピタル等が投資する場合、理解を得るにはIPOを前提とすることが多い一方、当初想定どおりにIPOできるとは限りません。事業シナジーの創出という観点からも、M&Aによる資本再編は有力な選択肢となります。時価総額100億円以上を求められる環境では、上場にこだわるより、可能な限り早くM&Aによる回収を目指すほうが合理的なケースも出てきます。
ただし注意点として、投資回収時にM&Aの選択肢があることを、投資家に対して事前に説明しておく必要があります。IPOを前提に投資した投資家に、後からM&Aを提案しても合意が得られないおそれがあるためです。
投資家は資本政策のどこを見る?
投資家が資本政策を見るとき、確認しているのは主に次の点です。
創業者・経営陣のインセンティブが残っているか。初期に株式を渡しすぎて創業者の比率が極端に低い会社は、「この経営者は本気で企業価値を上げようとするだろうか」という疑問を持たれます。上場を目指す会社なら、経営陣が企業価値向上に責任を持つ構造が必要です。
次のラウンドの余地があるか。今回の調達で希薄化しすぎていると、次のラウンドで既存株主の比率がさらに下がり、追加投資が難しくなります。投資家は自分が入った後のラウンドまで見ています。
株主構成が整理されているか。小口の株主が数十人いる、連絡が取れない株主がいる、といった状態は、上場審査でも、その後の意思決定でも障害になります。
優先株や投資契約の条件が過度でないか。既存投資家に強い権利が付いていると、新規の投資家が入りにくくなります。
説明できる根拠があるか。株価や比率の設定に、事業計画と整合した根拠があるか。「なんとなくこの金額」では、投資委員会での説明に耐えません。
そしてもう一つ、資本政策の前提として投資家が見ているのがエクイティストーリーです。エクイティストーリーとは、投資家に向けて会社やサービスの特徴や成長戦略、企業価値向上の道筋を説明するストーリーのことです。事業計画が資本政策の根拠となるように、エクイティストーリーは事業計画の根拠となります。 同じ事業でも、自社をどのドメインと定義し、どのような成長の絵を描くかによって、比較される類似上場企業が変わり、想定される時価総額も変わります。資本政策の数字の背後には、必ずこのストーリーがあります。

資本政策でよくある失敗
初期に株式を渡しすぎる
最も典型的な失敗が、創業初期に外部の株主へ株式を渡しすぎるケースです。
資金が乏しい創業期には、少額の出資でも大きな比率を渡してしまいがちです。しかし、企業価値が100倍になった後では、その1%の意味がまったく変わります。設立直後に安い評価額で株式を渡した結果、上場時に創業者の持分がほとんど残っていない——資本政策の失敗として、最もよくある形です。
創業者が「面白い会社だ」と言ってくれた知人に安易に株式を渡し、その後まったく関与しないまま株主として残り続ける、というケースも珍しくありません。
調達額と希薄化のバランスを見誤る
必要以上に大きな金額を、低いバリュエーションで調達してしまうケースです。資金は多いに越したことはないと考えがちですが、その分だけ希薄化が進みます。
逆に、調達額を絞りすぎて資金が尽きる、あるいは成長スピードが落ちて次のラウンドの評価が上がらない、という失敗もあります。「いくら必要か」を事業計画から精緻に見積もることが、この失敗を避ける唯一の方法です。
増資株価を高くつけすぎる
見落とされやすいのが、株価を高くつけすぎる失敗です。
創業初期に経営陣の持株比率を維持しようとして、高い株価で増資を行うケースがあります。持分の希薄化は抑えられますが、その後の追加調達が必要になった場合、前回より高い株価を付けられずダウンラウンドになるリスクを抱えます。早い段階で背伸びした株価を付けることは、将来の追加増資の支障になりかねません。
追加増資の必要性を十分に織り込み、早い段階で株価の妥当性について専門家に相談しておくことが有効です。
事業計画の精度が甘い
事業計画における利益の予測精度が低いと、公開時の株価が当初の予想より大幅に低くなることがあります。その結果、十分なキャピタルゲインを確保できなかったり、増資による希薄化が起こりすぎて上場形式基準を満たせなくなったりします。
必要以上の資金調達をした結果、利益の伸びが追いつかず、株価が想定を下回る、などなど資本政策の失敗は、多くの場合その根本に事業計画の甘さがあります。
安定株主対策を怠る
ベンチャーキャピタル等の売却方針、ロックアップ、上場時の売出し、上場後の流通株式比率は、主幹事証券会社との協議事項になります。持株比率だけで主幹事選定や公開価格が決まるわけではありませんが、上場時の需給と安定的な株主構成を説明できるよう、早期に出口方針を確認しておきます。
ベンチャーキャピタルを安定株主として想定していたのに、公開後に売却されるという前提のずれもあり得ます。また、創業時からの役員が退職してから株価が高くなり、その株式の引受先を探すのに苦労するケースもあります。誰を安定株主と想定するのかを、早い段階で整理しておく必要があります。
税法を無視した株式異動をする
税法上の時価より著しく低い価格で増資したり、株式を譲渡したりした結果、思わぬ課税を受けてしまうケースです。
とくに同族株主や役員が関わる株式異動では、取引当事者、取引目的、発行・譲渡の別により税務上の評価方法と課税関係が変わります。会社法上の有利発行、所得税・法人税・贈与税等の論点を切り分け、必要に応じて税理士、弁護士、株価算定の専門家へ事前に確認します。算定書は結論を正当化するためではなく、採用した前提と方法を客観的に説明するために作成します。
なお、事業承継を目的として上場を目指す場合も、後継者の持株比率を十分に高められないまま進んでしまう失敗があります。この場合、株価が低い早い段階で創業者から後継者へ株式を移転しておくことがポイントになります。
株主が増えすぎて意思決定が重くなる
創業期に小口の資金を多数の知人・親族から集めると、株主が数十人規模になることがあります。
株主が多くなると、株主総会の招集、本人確認、株主名簿管理、同意取得等の負担が増えます。金融商品取引法上の「募集」に該当するかは、既存株主数ではなく、原則として勧誘の相手方数や勧誘方法等で判定します。株主数50人を境に一律に公募になるわけではありません。連絡不能株主がいる場合も、手続や将来の組織再編に影響し得るため、早期の名簿整備が必要です。
創業時から、誰に株式を付与するか、退任時の取扱いをどうするか、連絡先をどう更新するかを文書化し、株主名簿と契約書を継続的に整備します。
資本政策を修正する方法はある?既存株主との調整が必要
すでに実行してしまった資本政策を修正する方法が、まったくないわけではありません。会社または創業者による株式の買い取り、共同創業者間での譲渡による再配分、新株発行による相対的な希薄化などが考えられます。
ただし、いずれも既存株主との調整が前提となり、時価での取引になるため、株価が上がっているほど資金負担は重くなります。譲渡側に課税が生じる点も考慮が必要です。修正できる可能性はあるが、極めて難しい。これが実態であり、だからこそ最初の設計が重要になります。
資本政策は誰に相談する?専門家に頼むべきケース
資本政策は、事業計画、企業価値評価、会社法、会計、税務、そして投資実務が交差する領域です。この全体を見渡せる相談相手を持てるかどうかが、設計の質を左右します。
とくに専門家への相談を検討すべきなのは、次のようなケースです。
- 初めて外部から資金調達をする
- 事業会社(CVC)から出資を受ける(会計上の閾値や事業上の利害が絡む)
- 共同創業者や初期株主との持分を整理したい
- ストックオプションの設計と税制適格の要件を確認したい
- 上場を見据えて資本構成を組み直したい
相談先を選ぶ際のポイントは、投資家側の論理を理解しているかです。資本政策は投資家との交渉の産物であり、「投資家がなぜその条件を求めるのか」を理解していなければ、実効性のある設計はできません。
JSGでは、公認会計士としてバリュエーションや監査に携わりながら、ファンドマネージャーとして投資判断も行ってきた立場から、資本政策の設計から資金調達の実行までをご支援しています。ご相談は、お問い合わせよりお気軽にご連絡ください。
資本政策に関するよくある質問
資本政策は自社だけで作れますか?
表を作ること自体は可能です。ただし、バリュエーションの妥当性、会社法・会計上の閾値の影響、投資契約との整合性など、専門的な判断が必要な論点が多数あります。実行前に第三者の目を入れることをお勧めします。
創業者の持株比率は何%を目指すべきですか?
一律の正解はありません。会社法上の決議要件、種類株式・株主間契約、将来ラウンドの希薄化、上場時の流通株式、経営陣のインセンティブを総合して判断します。単純な比率だけでなく、保有株式数×1株当たりの価値も複数シナリオで確認します。
ストックオプションはどのくらい発行できますか?
上記と同様で一律の正解はありません。採用計画と役割別付与、潜在込みの希薄化、次回調達、行使価額の払込み、上場時の需給を資本政策表で試算し、株主・投資家・主幹事証券会社と協議して決めます。
グロース市場の上場維持基準の見直しは、資本政策にどう影響しますか?
2030年3月以降、「上場5年経過後に時価総額100億円以上」が求められます。上場時点で基準を満たせばよいのではなく、上場後の成長が前提となるため、上場時に成長投資の余力(ファイナンスの余地)を残しておく設計が重要になります。あわせて、M&AをEXITの選択肢として早い段階から検討し、投資家にも説明しておくことが実務的です。
エンジェル投資家に何%渡すのが適切ですか?
出資額と企業価値から機械的に決まりますが、初期の低いバリュエーションでは、少額でも大きな比率になりがちです。「この投資家は資金以外に何をもたらしてくれるか」を踏まえて判断すべき論点です。
米国の事例をそのまま参考にしてよいですか?
慎重に考える必要があります。米国では創業者が過半数の株式を持たずに上場するケースも多く、平均的な創業者の持株比率は日本より低いといわれます。しかし、これはプロ経営者の層の厚さや資本市場の構造といった前提の違いによるものです。日本の環境を踏まえた設計が必要です。
まとめ
資本政策とは、いつ・誰から・いくらを、どの株価で調達し、結果として株主構成をどうするかを設計することです。事業計画と行き来しながら組み立てるものであり、一度実行すると戻すことが極めて難しいという性質を持ちます。
設計では、まずEXIT(IPO又はM&A)から逆算し、資本政策表で上場時点までの希薄化を通しで確認します。会社法上の決議要件は定足数・出席状況・定款等を含めて確認し、会計上の子会社・関連会社判定は支配又は重要な影響の実態で検討します。経済価値は、持株比率だけでなく保有株式数×1株当たりの価値で捉えます。
とくに2030年3月以降は、グロース市場で「上場5年経過後に時価総額100億円以上」が求められます。上場できる規模ではなく、上場後も伸び続けられる規模を前提とした設計が、これまで以上に問われることになります。
これから資金調達を検討される方は、まず事業計画から必要資金を逆算し、上場時点までの資本政策表を一度引いてみることをお勧めします。設計に迷われた際は、JSGのお問い合わせよりご相談ください。投資家側の論理と会計の両面から、実行可能な資本政策の設計をご支援します。